求菩提山の史跡指定と今後の整備
栗焼憲児 (豊前市教育委員会)
1.はじめに
 豊前市では市内に所在する「求菩提山」について国の史跡とすべく作業を行ってきたが、昨年ようやく念願かなって正式に指定がなされた。
 今後は1997年に策定された「整備基本構想」に基づき「整備基本計画・基本設計」を行い、求菩提山を多くの人々が活用できる史跡として整備してゆくことになる。

2.これまでの経緯
昭和46年 「求菩提山修験道遺跡群」県史跡指定。
昭和49年 「如法寺境内」が県指定史跡となる。
昭和57年 求菩提山修験道遺跡群について国史跡指定申請を行うが諸般の事情により審議までに至らなかった。
平成8年 指定申請に向け文化庁と事前協議。
平成8年 指定申請に向けた作業をはじめる。
平成8年 求菩提山史跡指定推進協議会発足。
平成8年 史跡指定に向けた承諾依頼を開始。
平成8年 求菩提山史跡整備基本構想策定委員会発足。
平成9年 求菩提山史跡整備基本構想承認。
平成13年2月 文化庁へ指定申請。
平成13年4月 文化審議会へ諮問。
平成13年5月 文化審議会から答申。
平成13年8月 文部科学省より官報告示。

3.指定地の概要
名称   史跡「求菩提山(くぼてさん)
所在地 福岡県豊前市大字求菩提121-1番地ほか
      福岡県豊前市大字篠瀬67-1番地ほか
      福岡県豊前市大字鳥井畑241-1番地ほか
      福岡県豊前市大字岩屋80-1番地ほか
      福岡県豊前市大字山内929番地ほか
      福岡県築上郡築城町大字寒田2062-7番地ほか
面積   1,575,835.49u(内、豊前市分1,453,028.49u 築城分122,807.00u)
      国有地      37,072.09u
      福岡県有地    6,054.49u
      豊前市有地   17,539.78u
      公有地      38,840.06u
      民有地    1,476,328.53u
 今回の指定地は全体で1,575,835.49uにも及び、その内、求菩提山本体が1,364,026.53u、如法寺地区191,016.91u、岩洞窟地区20,792.05uとなっている。地目別に見るとほとんどが山林で、全体の93.6%を占める。
 また、民有地(寺社地を含む)が90%近くを占めることから、整備にあたっては考古学的な調査が必要な部分もあり、今後整備基本計画の策定を行いつつ、確認調査の実施、用地買収などを同時並行で行うこととなる。
 併せて、地元住民の整備に対する理解を得るための啓発事業も必要であろう。

4.整備に関する基本的な考え方
 今後の整備については1997年史跡指定に先立ち策定した「求菩提山史跡整備基本構想」に基づき計画されることになる。まずその第一段階として2002年度には「求菩提山整備基本計画」の策定を行い、具体的な整備の内容を検討する予定である。
 基本的な考え方としては自然環境の保全を前提とし、山伏達が共生を図った森を最大限に活用するというものである。したがって、建物の復元であるとか大規模な面的な整備は行わず、求菩提山を訪れる人々が山中を十分に散策できるようなルート整備が基本となる。また史跡としての求菩提山を理解できるようサイン計画についても配慮を行う予定である。
 ただし、山内は台風被害や林業の衰退などで荒れている部分もあり、こうした箇所については必要な復旧作業が必要であるし、日常的な管理を目的とした管理計画の策定も考えなければならない。
 さらに、修験道という精神文化を理解する方法として現地だけでなく一元的な解説も必要となるため、現在の求菩提資料館をリニューアルしエコミュージアムとして活用することも検討したい。
 一方、今回の史跡指定で特徴的なことは、求菩提山本体だけではなく関連する3地点についても同時に指定し、求菩提山の修験道文化を一体的に理解することが出来るようになったことである。そのため、不動窟など窟群、岩洞窟、如法寺についてそれぞれの実情に応じた整備が必要となる。これらについては既に一部整備されているものもあることから、一元的な取り扱いは出来ないが、求菩提山と有機的なつながりを持たせながらネットワーク的なイメージでの整備を考えたい。

 春、如法寺には桜が咲き乱れ、求菩提の大鳥居跡から見る山は桜の花で飾られる。ヒメシャガが可憐な花をつけ、やがて犬ヶ岳にはツクシシャクナゲが自然の確かさを教えてくれる。
 夏、森の木陰は一服の涼をもたらし、山から湧き出す清流は自然の恵みとなり私達の心を潤す。如法寺にはハスの清楚な花が咲き、在りし日の栄華を偲ばせる石塔群と奇妙なコントラストを醸し出す。
 秋、山は日ごと赤や黄色に彩られ、常緑広葉樹林は見事な自然のじゅうたんをつくりだす。そのすばらしさは、そこに立つ者だけが知ることのできるユートピアでもある。
 冬、岩洞窟に佇むと自然のゆるやかな時間の流れに我を忘れる。飛天の優雅な姿は古の時を刻むように問いかけ、遠く犬ヶ岳は無垢の雪化粧を施している。そして、求菩提山にお田植え祭の神歌が流れる頃、山は再び春を迎える。

 こんな求菩提の四季を大切にした整備こそが山を守り、そこを訪れる人の心を和ませてくれる。また来年来たくなる、そんな史跡として求菩提山を整備したいと考えている。

5.将来の構想
 今回、求菩提山は豊前市と築城町の一部を対象に史跡指定が行われたが、修験道遺跡とは本来もっと広範囲なエリアを対象として構成されている。本地域においても築城町(東光寺)、椎田町(国見山)、大平村(松尾山)、犀川町(倉持山)などに求菩提と関係する遺跡が見られ、こうしたものを視野に入れた整備構想が必要と考えられる。現状では行政区の違いもあり、一概に論じられないが、将来的に検討されるべき問題である。

 以上、今回の史跡指定の概要と今後の整備計画について、基本的な考え方を述べた。多分に抽象的な表現となったが、具体的なことは正にこれから専門家をはじめ、そこに生活をする地元の人たちなど、多くの方々の意見を聞きながら決めてゆきたいと考えている。国指定史跡とは将来に残すべき貴重な文化財ということである。文化財保護は行政だけでできるものではなく、地域の人々の理解があってはじめてなしえるものである。そうした意味で、文化財を生活の一部として認識していただければと思う。

                                                 2002.03.31
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