【福岡県指定無形文化財】 豊前市の岩戸神楽
栗焼憲児 (豊前市教育委員会)
 豊前市内に伝承される神楽は、かつて八つの神楽講により保持されてきたが、現在では六つの神楽講により受け継がれている。その成立は古く、中世にまで溯ることができるという。神楽の古い形態は宮廷の「御神楽」にその起源を求めることができるとされ、所謂社家神楽と称されるものであるが、現在継承されているのは明治以降に社家から氏子、農民に伝授され、里神楽と呼ばれる芸態である。
 さて、豊前神楽の特徴はひとつに祓いの概念をもつ『採物神楽』と神話に基づく演劇的要素の強い『出雲系神楽』を主体とし、これに湯立てを行う『伊勢系神楽』の要素が混合する。とくに湯立てでは「人形の祓い」「火渡り」「松倒し(幣切り)」といった極めて修験道の影響が強い要素を見ることができ、これらが豊前神楽の最大の特徴となっている。
 次に演目について見ると、採物神楽を中心とした式神楽と、面神楽による奉納神楽に大別される。演題は各神楽講によって微妙に異なるが、基本的には同じ流れと思われる。その内容を見ると、
《式神楽》
@祝詞奏上 A壱番神楽 B花神楽 C笹神楽 D弓正護 E地割 F式駈仙 G岩戸(思兼之命舞、八重垣之命、布刀玉之命舞、長白羽之命舞、玉祖之命舞、天鈿女之命舞、手力男之命舞、神送り)
《奉納神楽》
H神迎 I大蛇退治 J綱駈仙 K本地割 L四人剣 M乱駈仙 N三神 O盆神楽 P剣神楽 Q二人手草 R駈仙 S湯立て(祓舞、神随、湯立駈仙、火鎮、火渡り)
が見られる。このほか、それぞれの神楽講の特徴として二人剣、幣正護、掛手草、宝満、恵比寿、地堅、やもめ神楽、美々久なども見られる。
 こうした豊前市内に伝承される神楽は、江戸時代の神楽の形態を極めてよく残していることと、修験道文化との融合による独特の芸態(湯立て)を有することが高く評価されて本年度福岡県の無形文化財として一括指定を受けた。しかし、その実、十分な調査がまだまだ行われておらず、今後は文献や古相面、さらに民俗学的な調査等を通して、その実態をより明らかにしていく予定である。
戻る